「演劇的英知で困難を乗り越える」

劇団の企画会議などで、私たち演劇人がよく使い、大きな説得力を持つ言葉です。

演劇的英知とは、演劇を通して得た智恵のこと。

この言葉を投げかけられた者は、創作活動においての能力、センスを認められ、さらに経験を踏まえて、目前の困難を乗り越えられる力を備えていると期待されていると感じます。あるいは、今は自信はなくとも、そう期待される存在でなくてはならないと自身を戒め、必ず乗り越えるのだと意識を高めてくれる言葉でもあります。

ご存知の通り、演劇は総合芸術活動です。

台本という文学があり、舞台美術があり、音楽があり、肉体を持つ俳優がいます。舞台上にのせられたモノだけではありません。観客が加わり初めて成り立ちます。実は、想像以上に観客は重要な存在なのです。

観客は俳優の演じる人間の人生や想い、作品の持つ命題に共感し、自身を振り返ります。こうした観客のもたらす反応によって、舞台上の俳優は自身の演じている役割、表現をより確固たるものにするという相互作用に加え、観客の想像の無限のふくらみを阻止せずに舞台を飾ることが、評価に値する総合芸術、舞台だと考えます。

総合芸術だからと、すべての役割を動かすことに意義を求めるのではなく、必要なものを必要な時に最大限活用し、命題を効果的に表現するには、効果を極力最小限にとどめるという手法をとる場合もあります。

「わが町」(作・ソーントン・ワイルダー・米・1938年初演、ピュリッツー賞受賞)という作品では、簡素な椅子と机だけで様々な場面を作り上げていきます。舞台装置や立派な小道具を用いるよりも効果的な場合があると証明された名作のひとつです。

私にとって、「演劇的英知で困難を乗り切る」とは、実際に創る物を見て判断してください。演出家をはじめとする座組に任せてくださいという意味も含みます。スタッフ、演者、観客、関係するすべての人たちの智恵をまとめ、形にする責任をましたという覚悟です。

私は「演劇的英知」を背負い、舞台演出に挑んでいます。